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 自動車産業ではCASE(Connected, Autonomous, Shared & Services, Electric)と呼ばれるパラダイムシフトが進んでおり、その中でコアとなるテクノロジーが変化し、新興メーカーの台頭に見られるように産業構造の変革に直面している。これはもはや自動車産業単体の出来事ではなく、モノづくりあるいは社会構造を含めた変革につながる可能性があり、より横断的なシステムの理解が必要となる。
 これらの新しい価値を実現するためにはサイロ化された組織構造によって閉ざされた機能横断的価値創造の扉を開く必要があり、デジタル化による情報連携が唯一の解決策と言ってもよいと考えられる。
 世界的に見ても、産業界全体にドイツ・インダストリー4.0、米国・インダストリアルインターネット、中国・中国製造2025、日本でもSociety5.0など、グローバル化、IoT(モノのインターネット)化、AI化による新たな産業革命と言われる技術革新の概念が各国で打ち出されており、各国がデジタル領域の規格化を検討しており、GAFAが覇権を握るIT戦略に対して、モノづくりの領域での動きが活発化している。
 モノづくりは市場調査、企画、開発、生産、販売、サービスなどの複数のプロセスで構成されており、この全体をデジタル化することは容易ではない。特に生産現場でのすり合わせに実績を持つ日本企業ではデジタル化の必要性が欧米に比べて重要視されてこなかった。特に自動車産業ではそのプロセスの複雑さから全体としての推進には大きな課題であった。このような背景に対して、近年、超大型X線CT装置で非分解のまま、車両丸ごと一台をそのまま撮像し、そこからの画像解析により構造部材・部品や配線などの配置と部品への分解・デジタル化する技術が現実となってきた。実際に、実部材・部品からの分解データと統合して3D-リバースCADデータとして販売される事例も既に存在する。
 これらのデータを使って、高度で快適な運転制御のためのシステム設計や衝突シミュレーションをはじめとするCAEへの活用など、電気自動車の新規の開発プロセスの短縮化が急速に進展している。しかしこれは始まりに過ぎない。実物での物理現象をすべて表現可能なサイバー空間を構築することができれば、単一産業だけではなく複数産業の連携について、これまでに比べて容易に検討することが可能となる。これを可能にする技術をサイバー・フィジカル・エンジニアリング(CPE)と位置付けている。
 つまりこの技術は単一の産業についての取り組みではなく、モノづくり全体、もしくはマーケットと一体となった検討を可能にすることを目的とするものであり、従来のコピー技術としてのリバースエンジニアリングではなく、“Physical To Cyber”と“Cyber To Physical”の2つのベクトルをシームレスに利用できる技術を目指す。
サイバーフィジカルエンジニアリング(CPE)はこれらの概念を具体的な工学として扱う方法の一つであり、ものづくりにおける計測・設計・シミュレーションにおける新しい情報基盤を構築するものである。
 日本はこれまで、モノづくりの分野で世界的に評価を受けてきたが、世界的にみて特殊な例であり、ガラパゴスと言われることも少なくない。CPEとしては日本特有のモノづくりの優位性を分析し、国際的にみて価値の高いデジタル化基盤を構築することで、日本企業が海外で活躍できる機会増大につながる技術構築を目指し、国内の中堅・中小企業も含めた産業活性化に資するものとしたい。

直近の取り組み
 技術進化の著しい最新の中国製電気自動車を例にして、部品の3D計測(車体の中での三次元的な配置とそれぞれの形状の計測)と材料分析によるサイバーフィジカルエンジニアリングを行い、そのデータを元にした、各種CAEシミュレーションモデルの作製と、得られたシミュレーションの検証などを行うとともに、海外先行技術との比較など技術動向を把握する。これらにより、CPE技術の現時点での課題や今後の方向性などを明確にし、我が国製造業の設計生産情報の新しい展開に貢献するとともに、安全保障上で懸念されるリバースエンジニアリングによる技術情報流出対策に資することを目標としている。

CPE技術の概念を下図に示す。
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